「無料」が思考力を奪う。Evernoteは衰退するのか? | Sirius@web  

2016年6月30日木曜日

「無料」が思考力を奪う。Evernoteは衰退するのか?

Iphone 676726 640

Evernote が有料プランの価格を値上げしました。ベーシックプランは引き続き無料ですが、ノートを同期できるデバイス数が2台までに制限されるようです。ただし、Web版は他のデバイスでも利用できます。

僕は無料プランで3台以上のデバイスにアプリをインストールしているので、これまで通りの利用はできなくなりそうです。

Evernote
source: Evernote


今後の選択肢は以下の3つが考えられます。

  • 利用するデバイス数を2台に抑えて無料プランを継続する
  • 有料プランに変更する
  • 他のサービスに乗り換える

ネット上では、サービスの乗り換えを検討するユーザーが少なくないようです。課金をするぐらいなら他の無料サービスを利用しよう、ということですね。

ところで、有料になるといっても「プラス」プランは月額360円または年額3100円です。年額で支払えば一月当たり約260円になります。なぜ260円のためにサービスを乗り換えたがる人がそんなにいるのでしょうか。これは行動経済学と関係がありそうです。

「無料」の前では合理的な判断力を失う

実は、「無料」には意外なほど人の心を動かす力があります。行動経済学者のダン・アリエリー教授は、無料の力を調べるために以下の実験を行いました。

ダン教授は学生らと共に、リンツのトリュフという高級チョコレートとハーシーのキスチョコという小粒のチョコレートを用意して、公共の建物にテーブルを出して商売を始めました。

まず、リンツのトリュフを15セント、キスチョコを1セントに設定してお客にどちらか一つを選んでもらいます。お客は合理的に値段と品質を比較してからどちらかのチョコレートを選びました。その結果、約73%がトリュフを買い、27%がキスチョコを買いました。

次は「無料」の実験です。先ほどと同じリンツのトリュフを14セントに設定し、ハーシーのキスチョコは無料で提供しました。これによりどのような違いが出たのでしょうか。チョコレートの品質は変わらず、どちらも1セントずつ安くなっただけなので、合理的に判断すると先ほどと同じ結果になるはずです。

ところが実験の結果キスチョコは大人気になり、約69%のお客が無料のキスチョコを選びました。高級チョコを安く購入するチャンスを放棄してまで小粒のキスチョコを選んだのです。値段の設定をいろいろと変更しても実験の結果は変わらず、キスチョコを無料にするとやはり大人気になったそうです。

このことから、何かが無料になると、我々は提供されているものを実際よりずっと価値があると考えてしまうことが分かります。その理由をダン教授は次のように考察しています。

それは、人間が失うことを本質的に恐れるからではないかと思う。無料!の本当の魅力は、恐れと結びついている。無料!のものを選べば、目に見えて何かを失うという心配はない(なにしろ無料なのだ)。ところが、無料でないものを選ぶと、まずい選択をしたかもしれないという危険性がどうしても残る。だから、どちらにするかと言われれば、無料のほうを選ぶ。

ダン教授は他にも無料の力を調べる実験を試しており、いずれの実験でもお客が無料のために分別をなくしてしまう結果になっています。

また、アマゾン(Amazon.com)は数年前に一定額以上の買い物をすると送料が無料になるサービスを始めました。この無料サービスを始めたことで売上が大きく伸びたのですが、フランスでは売上がまったく伸びませんでした。なぜならフランス支社では、送料を無料ではなく1フラン(約20円)に設定していたからです。その後フランスでもほかの国と同じように無料に設定すると売上が劇的に伸びたといいます。送料1フランには見向きもしなかった人たちが、送料無料には飛びついたのです。このことからも、無料の力がいかに大きいかが分かります。

他にも例はありますが、要するに我々は、合理的に判断しているようでいて、実は「無料」の力の前では冷静な判断力を失っているのです。

Evernote の方針変更により、無料プランの継続利用が厳しいユーザーも多いと思います。有料プランに切り替えれば解決することでも、上述の通り無料の魅力があまりに大きいため、有料への切り替えに抵抗を感じる人も少なくないでしょう。

有料といっても月額わずか360円(年払いなら一月約260円)です。たとえば今月の食費が例年より260円高くても特に気にならないと思います。それでも Evernote はチョコレートの実験と同じ結果になるのでしょうか。無料の魅力に惑わされず、自分にとっての最適な選択肢を冷静に考える必要がありそうです。


関連記事:僕らの選択は操られていた - 行動経済学で見るテクニック


広告


0 件のコメント:

コメントを投稿