英語力より日本語力? プロの翻訳テクニックを盗む夜 | Sirius@web  

2016年6月18日土曜日

英語力より日本語力? プロの翻訳テクニックを盗む夜

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翻訳文を読むのが好きです。翻訳は和訳とは似て非なるもので、優れた翻訳には感動さえ覚えます。英文を同じ意味の日本文に変換できればとりあえず和訳は完了しますが、自然な日本語に翻訳するのは一筋縄ではいきません。

今回は、無料で公開されている英語記事とその翻訳記事から、プロが駆使している翻訳テクニックを見ていきます。

翻訳とはけっしてそれほど簡単なものではありません。(中略)「外国語がペラペラでも翻訳は別」なのです。翻訳者は文字通り骨身を削る思いをすることがしばしばあります。


翻訳テクニック

名詞を読みほどく

次の例文は『PICK THE BRAIN』の英語記事翻訳記事から引用しました。この記事では、仕事中に注意力散漫にならないためのコツが紹介されています。

A little office chatter is fine.

(直訳)オフィスでの少しのおしゃべりは良いことです。

"A little office chatter" という名詞をそのまま「オフィスでの少しのおしゃべり」と訳しましたが、これではすっきりしません。どうしたら自然な日本語になるでしょうか? 翻訳記事では次のように訳されています。

(翻訳)オフィスで少しだけおしゃべりするのは良いことです。

この翻訳では、「少しのおしゃべりは」ではなく「少しだけおしゃべりするのは」と訳すことで、日本語らしい表現になっています。ちょっとしたことですが、ここに英語と日本語の特徴が表れています。

英語は名詞中心の発想をするのに対して、日本語は動詞中心の発想をするという特徴があります。そのため、英語の名詞的な表現を日本語の動詞的な表現に書き変えることで、自然な日本語に訳しやすくなります。

英語は、あるまとまった内容を言語化する場合、名詞を核にし、その前後に修飾句や節をつないで、文章を構成してゆく傾向が強いのにたいして、日本語は、むしろ動詞を中心にして、できるだけ状況に密着し、ことの成り行きに沿って言語化する傾向が強いといえるだろう。要するに、英語はモノ的発想を取るのにたいして、日本語はコト的発想を好むのである。
例えば「子供が泣いているのに出会った」とか、「子供が泣いているのを助けてやった」とかいう表現によく見られる。「泣いている子供に出会った」とか、「泣いている子供を助けてやった」とかいう<もの>的な表現よりも、「泣いているのに」、「泣いているのを」という<こと>化された表現のほうが、むしろ日本語の生理にはぴったりくるのである。

他の例を見てみます。次の例文は、『Inc.』の英語記事とその翻訳記事から引用しました。

Everyone wakes up sometimes with a desire to not go into work.

(直訳)誰もが出社しない欲求をときどき持って目を覚まします。

上の直訳を読んでどのように感じたでしょうか。この直訳でも意味はなんとか分かりますが、自然な日本語とは言えません。翻訳記事では次のように訳されています。

(翻訳)目が覚めて仕事に行きたくないことは誰にでもあります。

伝えている情報量は変わりませんが、直訳よりずっと読みやすくなりました。"with a desire" を直訳すると「欲求と共に」「欲求を持って」といったところでしょうか。"desire" を名詞のまま訳すのではなく、翻訳記事ではこの名詞を読みほどいて「仕事に行きたくないこと」と訳しています。


もう一つ『POPULAR SCIENCE』の英語記事翻訳記事から例を挙げます。この記事では、外の光を浴びることが子供の近視予防に良いことを説明しています。

But new research shows that exposure to outdoor light might play a bigger role in preventing myopia than previously thought.

(直訳)ところが、最新の研究が、「屋外の光への露出」が、これまで考えられていた以上に、近視の予防に大きな役割を果たしている可能性があることを明らかにしています。

(翻訳)ところが、最新の研究によって、「屋外の光を浴びること」が、これまで考えられていた以上に、近視の予防に大きな役割を果たしている可能性があると明らかになりました。

直訳では「屋外の光への露出」と訳しましたが、翻訳記事では名詞を読みほどいて「屋外の光を浴びること」と訳しています。ここでも名詞的説明から動詞的説明に変換することで分かりやすい日本語になっています。

英語では名詞一個の中に状況全体を凝縮してしまうのにたいして、日本語では、これを文章の形に読みほどき、展開してやらなければ、自然な表現にはならないということである。

無生物主語を変換する

英語では無生物主語がよく使われますが、無生物主語の英文をそのまま訳すと変な日本語になりがちなので工夫が必要になります。

先ほどの例文をもう一度使います。

But new research shows that exposure to outdoor light might play a bigger role in preventing myopia than previously thought.

(直訳)ところが、最新の研究が、「屋外の光への露出」が、これまで考えられていた以上に、近視の予防に大きな役割を果たしている可能性があることを明らかにしています

(翻訳)ところが、最新の研究によって、「屋外の光を浴びること」が、これまで考えられていた以上に、近視の予防に大きな役割を果たしている可能性があると明らかになりました

直訳では「最新の研究が、(中略)明らかにしています」と訳しましたが、翻訳記事では「最新の研究によって、(中略)明らかになりました」と訳されています。

直訳ではまるで「最新の研究」という無生物が働きかけているような印象です。英語では無生物を主語にすることは珍しくありませんが、日本語ではなるべく無生物を主語にしない方が自然な表現になります。翻訳記事では「最新の研究」を主語ではなく理由として扱うことで分かりやすい日本語になっています。

また、直訳では主語「最新の研究」と述語「明らかにしています」がかなり離れているため、分かりにくさの原因にもなっています。

日本語では、物事全体が自然にそうなったというような表現を好むのにたいして、英語ではこれを人間の「行動」として捉え、「動作主 + 他動詞 + 目的語」の形で表現することを好む。

他の例文を見てみましょう。こちらは『lifehacker』の英語記事翻訳記事から引用しました。

Producing quality work reminds you of your value and, as Boogaard says, boosts your confidence.

(直訳)Boogaardが言うように、質の高い仕事の生産があなたの価値を上げ、自信を付けさせます

(翻訳)Boogaardが言うように、質の高い仕事をすることであなたの価値は上がり、自信もつきます


もう一つ『Crew』の英語記事翻訳記事から例文を挙げます。

The existence of the group reassures its members that their shared cause is noble.

(直訳)グループの存在が、メンバーの共通の目標が壮大であるとメンバーに再確認させる

(翻訳)グループの存在によって、メンバーは自分たちに共通の目標が壮大であることを再確認する


以上のように、無生物が対象に働きかけるのではなく、無生物の働きや存在によって何かが起こるという訳し方をすると自然な日本語になります。ただし、あえて直訳的な訳し方をする場合もあるので、その点は好みの問題になってきます。

試される日本語力

今回は翻訳テクニックのごく一部を紹介しました。

英語を自然な日本語に翻訳するには、まず英語と日本語の特徴の違いを知っておかなければなりません。今回紹介したように、英語は名詞を中心とする発想が多く、この発想で書かれた文をそのまま訳すと不自然な日本語になることが多々あります。そのため、必要に応じて日本語の発想に合わせた変換をしなければなりません。つまり、上手い翻訳には、英語力だけではなく日本語力も求められているのです。

言うは易く行うは難し。最後に問題を1問出題します。本記事で紹介したテクニックとあなたの日本語力を駆使して、以下の文の太字部分を分かりやすい日本語に翻訳してください。問題文は『Inc.』の英語記事翻訳記事から引用しました。

Exposure to novelty triggers an increase in dopamine levels in the brain, which associates higher dopamine levels with a pleasurable sensation.

(直訳)目新しさへの露出が脳内のドーパミン濃度の増加を引き起こし、これが「快感」と結びつきます。

回答

(        )、これが「快感」と結びつきます。



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